CD-211 A-NET
2010/12/26 作成
2022/03/10 更新
OPアンプを使用した3ウェイ・チャンネル・デバイダー
特長 | オーディオ用OPアンプを用いたフィルター回路 手配線(P2P)基板採用 |
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概略仕様 | クロスオーバー周波数:fc1=800Hz (18dB/oct)、fc2=6800Hz (18dB/oct) |
使用OPアンプ | OPA627 x8、LF411 x14 |
外形寸法 | 390(W) x 44(H) x 232(D) mm (突起物含まず)、重量:3.6kg |
コスト | 約7万円 |
履歴 | 2004~2005年製作. 2012年改良 (Rev.A). 2015年改良 (Rev.B). 2022年メーカー製チャンデバに置き換え. |
備考 | A-NETはアネットと読む.アナログ・ネットワークの意. |
以下の内容は、旧ホームページ「とのちのオーディオルーム」からコピーしたものです。用語の変更など一部編集しています。
コンセプト
本機はチャンネル・デバイダーCD-206の後継機であり、その改良型です。3-ウェイ・マルチアンプシステム用チャンネル・デバイダー(チャンデバまたはクロスオーバー・ネットワーク)です。
CD-206では、エミッター・フォロワーを用いたシンプルな回路を用いましたが、計算通りの特性が得られませんでした。本機では、より正確な動作をするフィルター回路の実現を目指しました。そのため、NOBODYアンプとして初めて、IC(OPアンプ)を使用することにしました。
本機には A-NET(アネット)という名前をつけました。アナログ・ネットワーク(Analog Network)という意味です。私の本職はコンピュータ技術者なので、自分の専門知識を活かすためには、DSPを用いたデジタル・ネットワークの方が良いとも考えましたが、趣味の世界で仕事と同じようなことはしたくないという気持ちが強く、あえて専門ではないアナログ技術にこだわることにしました。
CD-206は間に合わせ的に製作したチャンデバであり、安物パーツを使いましたが、本機は末永く使うことを考慮し、音響用部品を使うことにしました。
仕様
当初、クロスオーバー周波数(fc1、fc2)は、CD-206(fc1=800Hz、fc2=8000Hz)に近い、fc1=720Hz、fc2=7200Hzとしました。減衰スロープは、CD-206がfc1に対して18dB/oct、fc2に対して12dB/octと変則的だったのに対して、本機では、両方とも18dB/octとしました。fc1、fc2における減衰量は、-3dBとしました。
本機を企画した段階では、スピーカーSS-309のミッドレンジ部にフルレンジ・ユニットを使用していたので、ミッドレンジ出力をフルレンジ出力に切り替える機能を盛り込みました。
改良を重ねた結果、最終的に次表のような仕様となりました。
ミッドレンジ出力切り替え機能は、3ウェイ/2ウェイ切り替え機能に変更しました。3ウェイ・モードではバンドパス・フィルターを通した信号を、2ウェイ・モードではハイパス・フィルターと通した信号をミッドレンジ出力端子に出力します。
項目 | 仕様 | 補足説明 |
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ゲイン | -0.2dB (max) | |
入力 | ライン入力(不平衡) x1 | ケーブル直出し、末端RCAプラグ付き |
入力インピーダンス | 100kΩ | |
出力 ※ | フルレンジ出力(不平衡) X1 LOW(不平衡) X1 MID(不平衡) X1 HIGH(不平衡) X1 |
RCAジャック ケーブル直出し、末端RCAプラグ付き ケーブル直出し、末端RCAプラグ付き ケーブル直出し、末端RCAプラグ付き |
出力インピーダンス | 100Ω | |
クロスオーバー周波数 | fc1=800Hz, fc2=6800Hz | fc1, fc2 における減衰量 = -6dB |
減衰特性 | 18dB/oct | 3次アクティブ・フィルター使用 |
マスター・ボリューム | なし | |
各帯域レベル調整 | LOW のみ | MID、HIGHの調整はパワーアンプで行う |
ミッドレンジ出力切り替え | なし(3ウェイのみ) |
※ 低域出力を LOW、中域出力を MID、高域出力を HIGH と表記。
以下に初期のブロック図と最新のブロック図を示します。
[初期ブロック図(CD-211BlockDiagram.pdf)]
[最新ブロック図(CD-211BBlockDiagram.pdf)]
設計
回路設計
NOBODYアンプとして初めて、増幅素子にIC(OPアンプ)を使用することにしました。CD-206では、トランジスター1石によるエミッター・フォロワー(エミフォロ)を使用しましたが、入力インピーダンスが充分高くないので、スロープが18dB/octにならず、15dB/octぐらいになっていました。より設計値に近い特性を得るために、OPアンプを採用しました。
OPアンプはディスクリートより音が悪いというのが定説ですが、自分自身で試してみる必要があると思い、採用を決めました。特性的には明らかにエミフォロより優れているので、OPアンプの選定や使いこなしによって、ディスクリートより優れたアンプのに仕上げることができると期待しました。
フィルター回路は教科書通りで、CD-206のエミフォロをOPアンプに替えただけの回路としました(その後少しずつ改良していくことになる)。
回路定数の計算式をExcelに入力し、設計の効率化を図りました。
[フィルター設計シート(FilterDesign.pdf)]
シート上の左側の表では、fc1、fc2と基準抵抗Rを入力すると、回路定数R1~R6、C、C1~C6の値が計算されます。右側の表では、基準抵抗Rと基準容量Cを入力すると、fc1、fc2が計算されます。最初に左側の表でCを求め、次に右側の表でCの値をE24系列の値にして入力し、目標値に近いfc1、fc2が得られることを確認します。最終的な回路定数は、R1'~R6'、C1'~C6'に最も近いE24系列の値を選びます。
本機の回路で特徴的なのは、増幅回路よりも電源回路です。NOBODYアンプとして、初めてIC(3端子レギュレーター)を用いることにしました。しかし、私はクローズド・ループ型である3端子レギュレーターをあまり信用していなかったので(高周波での発振を警戒)、CRによる平滑回路やデカップリング回路と組み合わせることにしました。
ミッドレンジ出力切り替えはトグル・スイッチとマイクロ・リレーの組み合わせにしました。マイクロ・リレーによる信号切り替えは、プリアンプPA-210で実績があります。
主要部品の選定
OPアンプは、過渡特性のよい品種を選ぶことにしました。ネットで調査した結果、Texas Instruments(旧Barr Brown)のOPA627が特性も音質も優れているという情報を得ました。データーシートを見ると、見事な方形波応答の波形が載っていました。FET入力で、入力オフセットとドリフトが小さく、ユニティ・ゲインで安定動作する設計になっていました。使いやすく、音質も良さそうなので、採用を決めました。
しかし、あまりにも値段が高いので(若松通商で3,360円)、中低音域用にはTI(旧National Semiconductor)のLF411を使うことにしました。OPA627ほどの性能ではありませんが、やはりFET入力で低オフセット・低ドリフトの使いやすいOPアンプです(後述のように、後にオーディオ用には不向きであることが判明します)。
マイクロ・リレーには、オムロンのG5V-1を採用しました。接点はいわゆる銀パラ金クラで、パッケージ内に密封され、内部には不活性ガスが充てんされています。
レベル調整用の可変抵抗器(VR)にはコストをかけないことにしました。調整が終了したら固定抵抗に置き換えるからです。
電源トランスは、ノグチトランスPMC-1802にしました。今までトランス類はすべてノグチトランス販売で購入してきたので、同社の取扱製品の中から選択しました。他社のトランスとは比較しませんでした。
ケースは自作せず、既製品を使うことにしました。PA-210では自作ケースにこだわり、部品の加工だけで1年以上も費やしてしまい、懲りてしまいました。本機ではタカチ工業WO44-37-23というアルミサッシ・ケースを採用しました。薄型で、サイドウッドを備えており、オーディオ用にぴったりだと思いました。横幅はPA-210よりやや大きく、PA-210の下に置くと、すっきり収まります。
抵抗は、フィリップスの音響用金属皮膜抵抗に統一しました。
フィルター用のフィルム・コンデンサーには1%品を使用しました。そのほうが計算値に近い容量値が得られるためです(E24系列の中から選べる)。複数のコンデンサーの組み合わせで所望の値を得ることもできますが、なるべく部品点数を少なくしたかったので、1%を選びました。
1%品は日本のメーカー(パナソニック、日通工など)しか生産しておらず、入手には苦労しました。ようやく秋葉原の東京ラジオデパート2階にある山王電子で売っているのを見つけ、購入しました。なお、2015年6月現在、1%品はどこのメーカーも製造していないようです。3月まではパナソニックが製造していて、Digi-Keyのサイトで入手可能でしたが、今後は流通での在庫がなくなれば、入手不可能となります。
実装設計
基板はPCBではなく、PA-203やPA-210で実績のある3mm厚のベーク板を用いることしました。いわゆるP2P(Point To Point)方式です。ICをホットメルト・ボンドで基板に接着し、周辺部品(CR類)を直接ICのリードに、また周辺部品同士を直接はんだ付けすることで回路を形成します。基板はブチル・ゴム両面テープでケースに貼り付けるので、一度取り付けると二度と外せません。
配線を固定するために、PA-210と同様、スタンド・オフ端子(ローソク端子)を使用します。高電圧がかかる部分はほとんどありませんが、OPアンプの入力はインピーダンスが高いので、絶縁の良いローソク端子を使うとよいと考えました。
基板配置と電源・グラウンドの引き回しは、下の写真のようにしました。
グラウンド線は、母線方式とし、両チャンネル共用としました。
はんだには、PA-210と同様、銀はんだを使用しました。今回はさらに銅を含有したもの(和光テクニカルSR-4NCu)を使用しました。
機構設計
前述のように、タカチ工業のWO44-37-23というアルミサッシ・ケースを使用することにしました。寸法は390mm(W) x 44mm(H)
x 232mm(D)と、スリムなケースです。プリアンプPA-210の下に置くことを想定して、この寸法のものを選びました。
既製品のケースを用いるので、機構設計といっても部品取り付け穴の位置を決めるだけです。
以下にケースの加工図面を示します。
[ケース加工図面(CD-211Metalwork.pdf)]
製作
金属加工・塗装
金属加工としては、フロントおよびリア・パネルと底板に部品取り付け用の穴を開けるだけです。ほとんど電動ドリルで穴開けするだけだったので、穴の数は多いものの、あまり手間はかかりませんでした。
フロントおよびリア・パネルは、いつものように、インスタント・レタリングにより文字入れをした上で、艶消しクリアのラッカー・スプレーで塗装しました。
ケースの組み立て
ケースの組み立てにもほとんど手間がかからず、やはり既製品のケースは楽だなあ、と感じました。
下の写真は、ケースを組み立て、ケースに直接取り付ける部品を取り付け終わったところです。左側が正面から、右側が背面から撮った写真です。
配線
ICへの小物部品(抵抗・コンデンサー)の取り付けに、意外に苦労しました。ICのリードに小物部品のリードを挟みこんだ上ではんだ付けを行うようにしたのですが、こて先を当てるときに小物部品が外れてしまうことが多かったのです。
他には特に難しい作業はありませんでした。
本機には入出力端子がありませんので(フルレンジ出力を除く)、接続ケーブルを基板に直接はんだ付けしました。
調整・測定
DMM(デジタル・マルチメーター)による入念な配線チェックの後、火入れ式を行いました。各部の電圧チェックでは、異状は見つかりませんでした。
本機には調整箇所はありませんが、周波数特性を測定し、フィルターが設計通りに動作しているかどうかを確認しました。
[周波数特性(CD-211FreqResponse.pdf)]
見事に設計通りの動作をしていることが確認できました。
ゲイン、残留ノイズ、チャンネル・セパレーションも測ってみました(注意:業界標準と若干異なる方法で測定)。ゲインはいずれの出力も-0.16dBでした。残留ノイズは測定器の限界(50uV)以下、セパレーションは、いずれの出力も20Hz、1kHz、20kHzにおいて85dB以上を確保できました。
ここまでは、非常に順調で、難産だったPA-210に較べ、本当にあっさりできてしまった、という感じでした。ICと既製品のケースを使うことで、アンプがいかに楽に造れるかを実感しました。
改良
2005年2月
いくつかの細かい改良を行いました。
特記すべきは、fc1における減衰量を従来の-3dBから-6dBに変更したことです。このことにより、fc1付近でのピークを抑え、より高品位な音になりました。
2011年3月~7月
ライン・ケーブルの変更により、高音質化を図りました。
スピーカーSS-309で採用し、音質改善効果が認められた0.4mm単線を、ライン・ケーブルにも使ってみることにしました。ケーブル・メーカー(47研究所)の宣伝によれば、この細い電線を緩くツイストさせ、同社製のプラグを取り付けると理想的なライン・ケーブルが出来上がるのだそうです。シールドもないケーブルが果たして良いのかどうか、少し胡散臭い感じがしましたが、ともかく試してみることにしました。
このケーブルは4ヶ月間試しましたが、どうしても期待した音質にはならず、結局Belden 8412を使ったケーブルに交換しました。
音質が良くない理由の第一は、プラグにあります。このプラグは、内部の空洞に芯線を通して、先端で180度折り曲げてプラグに巻きつける構造になっています。芯線を180度曲げることによって、その頂点で電流反射を生じるようになります。また、芯線表面に微小クラックが生じます。これではまともな音質にならないのが当然です。
プラグの加工精度が低いことも問題です。ものによって、ジャックとの勘合がきつかったり、ゆるゆるだったりします。きつい場合、無理に押し込むとジャックを傷つけてしまいます。このような規格外のプラグを用いること自体間違いだと感じました。
47研の主張によると、シールドはかえってノイズアンテナになってしまうとのことですが、シールドなしではノイズに対して無防備であり、結局はノイズを引き込んでしまうのだと思います。はっきり耳に聞こえるノイズは確認できませんでしたが、どこかざわつくような、ノイズ・フロアーが高いという感じがしました。
Belden 8412を使用した自作ケーブルは、プリアンプ(PA-210)とSACDプレーヤー(SCD-555ES)との接続に用いて、音質の高さは実証済みですが、やはり良い結果が得られました。
RCAプラグには、ノーブランドのテフロン絶縁材を使用したプラグを採用しました。余計な金属部品は捨て、プラグ部分だけを使用しました。絶縁には、熱収縮チューブを使用しました。
2012年12月 Rev. A
スピーカーSS-309のスコーカーを、コーン型からホーン型に変更することに伴い、fc1の変更を行いました。同時に、従来モノアンプとマルチアンプの切り替えを行っていたスイッチを、2-way、3-wayの切り替えに変更しました。機能が変更されたので、Rev.をAに上げました。
新スコーカー(Fostex D1405 + H400)に合わせて、fc1は740Hzから800Hzに変更しました。
切り替えスイッチを2-wayにすると、MIDからはfc1以上の信号が出力され、スコーカーがツィーターとして動作します。
2-way構成にすると、やはり高域の伸びがもの足りなく感じます。D1405の周波数レンジは800Hz~20kHzですが、高域はだら下がりの特性になっていて、高域のエネルギーが不足します。
2-way構成にしてもあまり省エネ効果はないので、CD-211の後継機には、この切り替え機能は必要ないと判断します。
2015年9月 Rev. B
スコーカー・アンプを、Flying Mole DAD-M100Pro から MA-215 Arabesque に変更することに伴い、下記の変更を行うことにしました。
- (1) MIDの-20dBアッテネーターの取り外し
- (2) MIDのケーブル長を3mに変更
- (3) MID用フィルターの上側カットオフの引き下げ
- (4) LOW用フィルターのカットオフの引き下げ
- (5) 2-way/3-way 切り替えスイッチの廃止
(1) -20dBアッテネーターは、Rev. Aの説明の中で書き忘れてしまいましたが、Rev. Aで追加した機能です。DAD-M100Proのゲインは高く、かつD1405の能率が高いため、アッテネーターで-30dB以上減衰させなければなりませんでした。しかし、DAD-M100Proのアッテネーターは-30dBまでしか絞れないため、本機の側にアッテネーターを設けていました。
MA-215のゲインは低目で、かつ-∞dBまで絞れるアッテネーターを内蔵しているので、本機のアッテネーターは必要なくなりました。
(2) DAD-M100Proは本機の上に置かれていたので、ケーブル長を短くしていました。MA-215はスピーカーに近い場所に設置されるので、ケーブルを長くしました。今まで線材にはBelden 8412を使用していましたが、MA-215の音質評価時に使用し、好印象だったモガミ電線のNEGLEX 2549を使用します。この線材は、メーター当たり160円(税抜き)と、かなり安価ですが、音質は優れていると思います。RCAプラグには、ノーブランド品ではなく、カナレのF-10を選びました。
(3), (4) カットオフの引き下げは、パワーアンプの変更とは関係ありませんが、この機会に変更を加えることにしました。fc1での減衰量は、以前に-6dBに引き下げたのですが、Rev. Bの変更時に計算違いをして、-4dBぐらいになってしまっていました。また、経験から、fc1よりもfc2でのピークが音質を大幅に落とすことが分かっていました。fc2での減衰量も-6dBになるように変更します。
(5) 2ウェイで使用する可能性はほとんどないので、切り替え機能を削除し、回路をシンプル化します。
これらの対策のうち、ローレンジ・フィルターのカットオフ引き下げは、実はまだ実施していません。
Rev. Bの設計を行ったのは2015年3月で、その直後に必要な部品を購入しました。実際に本機の改良を行ったのは、その半年後の9月に入ってからでした。ローレンジ・フィルター用の部品を紛失してしまい、取りあえず、ローレンジ・フィルター以外の変更だけを行いました。
その結果、fc1での減衰量は従来通り-4dB程度のままになっています。しかし、音質的には満足しているので、そのまま使い続けています。
Rev. Bの周波数特性は下図のようになりました。
ついでに、残留雑音とチャンネル・セパレーションを測定してみました(業界標準とやや異なる方法での測定です)。
残留雑音
LOW-L | LOW-R | MID-L | MID-R | HIGH-L | HIGH-R | FULL-L | FULL-R |
---|---|---|---|---|---|---|---|
130 [uV] | 110 [uV] | 80 [uV] | 90 [uV] | 70 [uV] | 70 [uV] | 90 [uV] | 60 [uV] |
チャンネル・セパレーション
Frequency | LOW L to R | LOW R to L | MID L to R | MID R to L | HIGH L to R | HIGH R to L | FULL L to R | FULL R to L |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20 [Hz] | 82.4 [dB] | 82.4 [dB] | ||||||
3 [kHz] | 89.8 [dB] | 90.4 [dB] | ||||||
20 [kHz] | 95.8 [dB] | 92.5 [dB] | 90.4 [dB] | 95.8 [dB] |
20Hzでのセパレーションが目標の90dB(NOBODYアンプの共通目標)に達していません。これは、整流回路が両チャンネル共通になっている上、デカップリング回路の時定数が不足しているためと思われます。高い周波数では、デカップリング回路が機能して、セパレーションが上がっているのだと思います。
自己評価
初めてGaudiに組み込んで使用したときには、CD-206とほとんど変わらない音質であることにびっくりしました。CD-206は目いっぱい安物のパーツを使って作ったアンプなのに対して、本機は質の良いパーツを選んだので、大幅に音質が向上することを期待していたのです。しかし、出てきた音は、聴き慣れたGaudiサウンドでした。アンプを1台替えたぐらいでは、音質はあまり変わらないものだと実感しました。
測定データが、計算通りだったのは、OPアンプを使っただけのことはあると思います。トランジスター一石のエミフォロでは、18dB/octの傾斜は得られませんが、本機では、簡単に実現できました。フィルターが計算通り動くというのは、後々の調整において、大いにありがたみを感じました。
使いこむにつれて、また、改良を重ねることによって、音質も上がってきたと思います。最終的にはCD-206を上回る音質になったと感じています。
一方で、以下に述べるような問題点も見えてきました。本機の後継機を設計する際の教訓としたいと思います。
OPアンプ
OPA627の値段が高すぎるため、中低域用のフィルターにはLF411を使いました。データシートを見る限り、中低域用であれば、LF411の性能でも十分と判断したのですが、どうもこの判断は甘かったようです。LF411のリードには磁性材料が使われており、少なからず音質を劣化させているものと思われます。
OPA627には磁性材料が使われておらず、さすがにオーディオ用に使われているICだと思います。
OPA627の音質については、他のOPアンプと比較試聴したわけではなく、また、前段のバッファ・アンプと高域用フィルターに使用しただけなので、真の実力はいまだによくわかりません。別の機会にじっくり音質評価をしたいと考えています。
電源回路
3端子レギュレーターを信用していないため(高周波域での発振を警戒)、3端子レギュレーターの後にCRのデカップリング回路を設けるという変則的な回路を設計してしまいました。後で再考したところ、ブロックごとにオープン・ループのレギュレーターを設ければよかったと気がつきました。次にチャンデバあるいはプリアンプを製作するときには、下図のような電源回路にしようと思います。
実装
本機に用いた基板は、PCBではなく、いわば「P2P基板」と呼ぶべき基板を使用しました。この基板は、想像以上に組み立てが大変で、特に部品交換が大変です。せめて、ケースから取り外せるとよいのですが、両面テープで固定しているので、外せません。
チャンデバは、その性格上、スピーカーが最も性能を発揮するように回路定数を調節しなければならず、部品の交換は簡単にできるようにする必要があります。
はんだ付けをした後は、基板を洗浄する必要がありますが、本機の基板はケースから外せないので、洗浄剤をスプレーできません。洗浄液をしみこませた綿棒で一箇所ずつ拭かなければならず、面倒です。
今後はさらに工夫を重ねた基板を考案しようと思います。
配線
グラウンド線(SG)を母線方式にしたのは、明らかに設計ミスです。下図のようなスター結線にするべきでした。
受動部品
PA-210に続いて、フィリップスの音響用金属皮膜抵抗を使用しましたが、やはり音質は今ひとつよくないようです。PA-210の場合、どうしてもこの抵抗のキンキンとした耳障りな音が気になり、一部を残して、タイヨームに変更しましたが、本機は部品交換に大変な手間がかかるし、使用している抵抗の数が多いので、交換せず、そのまま使い続けています。
この抵抗の問題点は、磁性材料を使っていることにあると思います。磁性材料を使用した部品は、えてして音質を落とします。今後はフィリップスの抵抗は使わないことにします。
1%のフィルム・コンデンサーにも磁性材料が使われていました。今後は、必ずオーディオ用フィルム・コンデンサーを使用することにします。
抵抗・容量の誤差については、1%にこだわってしまいましたが、5%で充分です。
もともと計算値通りの値を選んでいるわけではなく、E24系列の中から、計算値に最も近い値を選んでいます。つまり、最初から誤差を含んだ値なのです。また、多くの素子を使うと、誤差分散の原理で、カットオフ周波数はほとんど計算値通りになります(特性カーブの滑らかさが多少失われることはあります)。従って、今後は5%品を使うことにします。
ケース
タカチ工業のアルミサッシ・ケースは、サイド・ウッド付きで、一見かっこよいのですが、オーディオ用には不向きだということがわかりました。
一番の問題点は、シールド効果がないということです。特に、前面と背面のパネルは、サッシの溝にはめ込んであるだけで、電気的にサッシと接触していません。他の部品同士も接触抵抗がかなりありそうです。
次に問題なのは、防振対策がなされていないということです。
PA-210のケースの製作があまりに大変だったので、その反動で既製品のケースを採用してしまいましたが、やはり、理想を追求するには、自作ケースでなければ駄目だと実感しました。
総合評価
本機は、初めてOPアンプを使った実験的なアンプでした。前述のような様々な問題を抱えながらも、システム・トータルでは、かなりの高音質を実現できました。OPアンプを使用したフィルターが、計算通りの動作をしてくれるため、各スピーカー・ユニットの性能を引き出すことができたからだと思います。OPアンプの評価はまだ十分ではありませんが、少なくとも、OPアンプではHi-Fiアンプは作れないという偏見は解消できたと思います。
多くの問題を認めながらも、部品交換に手間がかかるP2P基板を使用しているため、本機を改良し続けるよりも、新規に造り直すべきと判断しました。