PA-203

2010/12/26 作成
2021/12/03 更新

管球式ステレオ・プリアンプ

トーン・コントロールを排し、シンプルさを追求したプリアンプ

特長 使用真空管:12AX7/ECC83 x2, 12AU7/ECC82 x2
回路方式:CR型イコライザー、無帰還型フラット段
独立電源部
概略仕様 機能:セレクター、テープ・モニター、ボリューム、Tape-to-tape ダビング
入力:PHONO (MM) x1、LINE x3、MONITOR x2
出力:REC x2、PRE OUT x2
イコライザー仕様: ゲイン:40dB、入力インピーダンス: 47kΩ、最大入力:1000mV
外形寸法 アンプ部:寸法:300(W) x 120(H) x 150(D) mm (突起物含まず)、重量:?kg
電源部:寸法:300(W) x ?(H) x 200(D) mm、重量:?kg
コスト 約5万円
履歴 1980年製作. 1995年改良(Rev.A). 2003年廃棄.

以下の内容は、旧ホームページ「とのちのオーディオルーム」からコピーしたものです。用語の変更など一部編集しています。


コンセプト

PA-202の後継モデルです。トラブルだらけだったPA-202に代わるプリアンプが早急に必要だったので、予定を繰り上げて製作しました。
コンセプトはよく似ていますが、トーンコントロールを排して、よりシンプルな設計としました。


設計

回路設計

動作が不安定だったPA-202の轍を踏まないように、増幅回路を全段無帰還としました。真空管による電圧増幅回路は、無帰還でも十分低ひずみにできます。ノイズに関しても、増幅段を減らせるので、かえって帰還アンプよりも有利です。

窪田登司氏の製作記事(MJ誌掲載)をほぼそのまま採用しました。初段にSRPP回路を採用している全段無帰還のプリアンプです。ちょうど私の要望に合っていました。
変更点は、テープ・モニター・スイッチです。テープ・デッキを2台接続できるようにしました。デッキ間でのダビングも可能にしました。これは、当時私は2台のデッキ(オープン・リールとカセット)を持っていたからです。
PA-202にあった、バランス・コントロールとモード・スイッチはつけませんでした。

ボリュームには、アルプスのディテントVR(2連)を採用しました。本機で唯一高価な部品です。

電源部は、パワーアンプ用の電源トランスと2個のチョークコイルを用いたπ型フィルターを採用。強力な電気的イナーシャをかけています。さらに、10W型ホーロー抵抗を5個並列接続したブリーダーを備え、レギュレーションを向上させています。これらはすべて窪田氏のアイデアです。

回路図は右チャンネルを省略しています。電源部の回路図は紛失してしまいました。
[回路図(SchemPA-203.jpg)]

実装設計

窪田氏の製作記事には実装に関する情報があまりなかったため、PA-202のコンストラクションを継承しました。

 


製作

PA-202と同じコンストラクションなので、製作はスムーズでした。製作期間はかなり短かったと記憶しています。


自己評価

回路設計に欠陥がありました。レコードを再生したときに、高音が冴えないので気がつきました。
測定してみると、RIAA偏差が、高音域でかなり大きくなっていました。原因を探ったのですが、なかなかわかりませんでした。何度チェックしても、オリジナルの窪田氏の設計と同じです。いったんアンプをチェックするのはやめ、電子工学の教科書を読んで基礎から勉強することにしました。

ようやく原因がわかりました。ミラー効果の影響を考慮しない設計になっていたためでした。
ミラー効果とは、P-G間(プレート・グリッド間)容量が増幅度倍されてグリッド側に現れる現象です。例えばP-G間容量を2pF、増幅度を40倍とすると、グリッド-グラウンド間に80pF(=2pF×40)のコンデンサーを接続したのと同じ効果が現れます。
本機の高域ロールオフ回路はグリッド側にあり、そのコンデンサーはグリッド-グラウンド間に接続されます。このコンデンサーの容量を計算するときは、ミラー容量を差し引く必要があります。

窪田氏の設計では、ミラー容量が計算に入っていませんでした。「弘法も筆の誤り」ですね。
このとき、雑誌に掲載されている設計であっても、ミスが含まれている可能性があるということを認識しました。製作記事の執筆者は往々にして自己宣伝が派手で、自分の技術が世界一であるかのように宣伝しますが、以後あまりあてにしないようにしました。今でも他者の設計を参考にはしますが、あくまで自分自身で設計することを基本にしています。

ところで、ミラー効果を解説する文章で、「鏡に写したように同電流が流れるため、『ミラー効果』と呼ばれる」という意味不明な説明を時々見かけますが、ミラー効果の「ミラー」は鏡(mirror)ではなく、この現象の発見者の名前(John Milton Miller)です。

高域ロールオフ回路の時定数を調整したのちは、まともな音質になりました。ややノイズが感じられましたが、ハムは皆無で、ホワイト・ノイズがほとんどでした。ようやくHi-fiプリアンプを手に入れた、という気持ちになったことを今でも覚えています。
なお、ノイズは経年変化で減っていきました。2~3年後にはほとんど気にならないレベルになっていました。

このアンプのグラウンド配線にはループがあります。ノイズを聞こえないレベルまで落とすためには、このループをなくす必要があるのですが、かなり大掛かりな作業になるので、そのまま使い続けることにしました。この教訓はPA-210 Simplicityで活かされます。


改良

Rev. A(1995年)

他のNOBODYアンプ同様に、電源1次側にライン・ノイズ・フィルター追加しました。FG電位をAC100Vホット/コールドの中間電位にしました。

初段B電源に高耐圧トランジスターを用いたシリーズパス安定化回路を追加しました。
安定化回路の基板はプリント基板ではなく、3tベーク板に部品をシリコン接着剤で付けたものとしました。部品のリード同士をはんだ付けすることで回路を構成します。基板はねじ止めではなく、ブチルゴム両面テープでケースに貼り付けました。基板とケースの両方の制振を狙いました。
この構造は以後のNOBODYアンプに継承されることになります。