MA-208

2011/12/30 作成
2021/12/06 更新

管球式ステレオ・パワーアンプ

ホーン・ツィーター専用設計! 小出力・高音質パワーアンプ

MA-208
特長 6BQ5 ULプッシュプル.
シンプル、かつ高音質.
タムラ製出力トランス使用.
概略仕様 最大出力: 10W+10W (8Ω). 周波数特性: 10Hz-50kHz (-1dB). 電圧増幅度: 18dB.
NFB: 16dB. 入力インピーダンス: 100kΩ.
外形寸法 寸法: 255(W) x 180(H) x 370(D) mm (突起物含まず). 重量: 13.8kg.
コスト 約9万円
履歴 1999年, ホーン・ツィーター用パワーアンプとして設計・製作. Gaudi および Gaudi II でツィーター用パワーアンプとして使用..

以下の内容は、旧ホームページ「とのちのオーディオルーム」からコピーしたものです。用語の変更など一部編集しています。


コンセプト

MA-205の後継モデルであり、基本コンセプトは同じです。ホーン・ツィーターをドライブするためのパワーアンプです。
MA-205は低コストで、短期間に製作したアンプでしたし、生まれて初めて自分で設計したアンプということもあって、物足りなさを感じていました。プリアンプPA-203、ウーファー用パワーアンプMA-201、スピーカーSS-307を改良した後、システム中最もクオリティが低いコンポーネントはMA-205だと思い、造り直すことにしました。
基本的にMA-205の設計を継承し、問題になっていた部分を改良することにしました。


仕様

回路方式 6GW8 三極管接続プッシュプル
アルテック型 (P-K分割型位相反転回路)
使用真空管 12AX7/ECC83 x2 (初段および位相反転段), 6BQ5/EL84 x4 (出力段), 5AR4/GZ34 x1 (電源部).
最大出力 10W + 10W (8Ω)
入力端子 1系統: MAIN IN (RCAジャック)
入力インピーダンス: 100kΩ.
出力端子 1系統: SP OUT (ネジ式端子板).
負荷インピーダンス: 8Ω.
ゲイン 18dB. (帰還量: 16dB)
周波数レンジ 10Hz ~ 50kHz (-1dB).
歪率 THD: ?%, IMD: ?%.
雑音 S/N比: ?dB. 残留雑音: 600uV.
電源 AC100V.
ケース 鈴蘭堂SL-10 (寸法: 255(W) x 60(H) x 370(D) mm) 使用

 


回路設計

回路構成

MA-205と同じくアルテック型(P-K分割型位相反転回路)としました。

主要部品の選定

MA-205では真空管に6GW8を使っていましたが、このような複合管では、初段管と出力管が同一チューブに内蔵されていることになるので、出力段から初段への干渉が気になります。また、部品配置を決めるとき、入力から出力に向かって整然と配置できないので、安定度を保てるかどうか心配になります。従って、今回は複合管は候補から外しました。
出力管には6BQ5/EL84を選びました。オーディオ用・楽器用に開発された球ですし、普及度が高く、入手が容易です。現行生産品もあります。

初段と位相反転段には12AX7/ECC83を使うことにしました。アルテック型の場合、初段でゲインを稼がねばならないので、ハイ・ミュー管を選びました。12AX7は最もポピュラーな真空管であり、生産している(いた)メーカーも多く、オーディオ用に改良された品種もあるので、迷わず選びました。

出力トランスは15W型でも良かったのですが、よりインダクタンスの大きい30W型にしました。メーカーはタムラにしました。タムラはずっと以前から使いたいと思っていたのですが、この歳(当時42歳)でやっと使う機会に恵まれました。機種はF685というもので、NFB用の3次巻線があるのが気に入りました。

チョーク・コイルはタムラのA396です。F685とデザインが統一されています。
電源トランスもタムラにしたかったのですが、ちょうどよい機種がなく、タンゴME-195にしました

回路設計

当初はMA-205と同様に固定バイアス方式を採用していました。C電源の安定化には3端子レギュレーターを使っていました。製作完了後、フルレンジスピーカーを接続して何度も試聴を繰り返しましたが、どうもしっくりきませんでした。今一つ躍動感がなく、音が生きていないという印象でした。原因がC電源にあるとは断定できませんでしたが、とにかくもっとシンプルな回路にしてみようと思いました。グリッドに多くの部品をぶら下げていることが、音を濁しているのでは、とも考えました。
結局、自己バイアス方式を採用し、出力管にペア管を用いることを前提に、DCバランスも省略してしまいました。精密に調整すると音質が上がりそうですが、実際のところ耳で聴いてわかるほどの差は出ません。特に帰還アンプはまったくわからないと言っていいと思います。自己バイアスはMA-201で実績がありますし、文献にも、固定バイアスに較べて音質が劣ることはない、と書かれていたので、自己バイアスに決定しました。

出力トランスのF685にはSGタップがありますので、これを使用してウルトラ・リニア(UL)接続としました。

MA-205の電源回路は、シリコン・ダイオードを用いた倍電圧整流回路でしたが、リップルがかなり大きかったので、今回は全波整流回路とし、整流素子には整流管を使用しました。MA-201で実績のある回路です。整流管の品種も同じく5AR4/GZ34にしました。

デカップリング回路は左右チャンネルで独立としました。

出力段の回路定数は6BQ5のデータシートの動作例をそのまま採用しました。6BQ5のようなオーディオ管の場合、HiFiアンプ用の動作例が掲載されていますので、自分で煩わしい計算をせずとも、最適な回路定数が得られます。私はそういう楽チンな設計方法が好きです。一つ問題なのは、最初は固定バイアスで設計し、組み立て完了後自己バイアスに変更したので、B+電圧がバイアス電圧分不足しているという点です。6BQ5のAB級動作のバイアスは-10Vなので、B+を10V上げればよいのですが、まあ10Vぐらいは音質に影響が出ないだろうと考え、そのままにしました。
その他の定数は経験値から決めました。

[回路図(MA-208Schem.pdf)]

当初高耐圧トランジスタを使用したレギュレーターを内蔵し、初段のB電圧を安定化していました。しかし、試聴の結果、これは明らかに音質を劣化させているということがわかり、すぐに回路から外しました(部品は載ったままですが)。やはりフィードバックというの曲者で、かえって微小な変位を発生させ、逆効果になってしまうのです。PA-203Aの二の舞を演じてしまいました。今後設計するアンプにはレギュレーターを使わないことにしました。

[2015/01/19 追記] {
NFB量は15~16dBを目標にしました。直線性のよい3極管を使えば、もっと低帰還のアンプを実現できますし、そのほうが良いと主張するアンプ設計者は多いと思います。しかし、私は少し多めの帰還をかけることにより、各種調整機能を省略できることと、ダンピング・ファクターが上がることのメリットが大きいと思います。また、本機は高能率のホーン・ツィーター用のアンプですから、ローノイズであることが求められます。そのためにも、NFB量はやや多めにしました。
位相補正回路は微分型のみにしました。積分型位相補正回路も用いれば、安定度は高まりますが、反面、高域での歪が増え、ダンピング・ファクターが下がります。積分型は高域における裸のゲインを減らし、帰還量が減るからです。
目標NFBマージンは12dBとしました。それ以上のマージンは望みませんでした。
}

実装設計

ケースには鈴蘭堂のSL-10を使用しました。材質は2tのアルミ板で、溶接がとてもしっかりしています。MA-201のように溶接がはがれることは、絶対にないと思います。ルックスも良いので、気に入っています。なお、天板は本体にねじ止めされているので、穴開け加工時には天板をはずすことができます。

部品配置は、MA-201のそれを踏襲しました。整流管からの熱を避けるため、平滑コンデンサーはケース内に内蔵しました。

以前は、上杉佳郎氏の影響もあって、SG-FGの接続は入力端子付近で行っていたのですが、今回はその妥当性を再検討しました。どこの電位を基準とすべきか、素直に考えた結果、電源の位置だと判断しました。整流管の取り付けねじの一つをSG-FG接続点(いわゆるアース・ポイント)としました。以後、NOBODYブランドのアンプはすべて電源付近に接続点を設けることにしました。

SL-10には大きなゴム足がついているのですが、インシュレーターとしての効果はあまりないとみて、別にインシュレーターを製作することにしました。MDF板に半球状の黒檀を接着したものを3個作りました。


製作

SL-10は2mm厚のアルミ製なので、手持ちのシャーシー・パンチ(1.5mm厚まで)は使えず、穴あけにかなり手間がかかりました。

配線に関しては、見た目より配線長を優先するのが私の基本方針ですが、今回は回路がシンプルで配線自体あまり多くないので、見た目も追求してみました。入力端子から初段管への配線と出力トランスから出力端子への配線はシャーシーのすみをはわせました。また、ワイヤーを適宜バインドしました。結果的に、私の自作アンプにしてはすっきりとした配線になったと思います。

Inside MA-208

調整

位相補正

本機には半固定抵抗等の調整箇所はありませんが、唯一位相補正は必要です。位相補正回路は微分型のみなので、帰還抵抗に並列のコンデンサーの容量を調整します。10kHz方形波テストを行い、容量値を決定しました。

10kHz square wave response into load of 8ohm 10kHz square wave response into load of 8ohm//0.47uF
10kHz方形波応答
負荷:8Ω(上:出力波形、下:入力波形)
10kHz方形波応答
負荷:8Ω//0.47uF(上:出力波形、下:入力波形)

[2015/01/19 追記] {上記の波形は調整時のものではなく、完成してしばらくした後に測定したものです。入力のローパス・フィルターを外さずに測定したため、波形がなまっています。調整時には、負荷が8Ω//0.47uFのときのオーバーシュートは、NOBODYの基準である方形波振幅の10%以内にぎりぎりおさまっていたと記憶しています。
なお、NFBマージンはL-chが16dB、R-chが12dBでした}

真空管の選定

当初はRCA製6BQ5を使用していました。音質は素晴らしく、後述のようにメーカー製ハイエンド機と較べても遜色がないと感じるほどでした。が、2年ほどで1本が壊れてしまいました。スペアとして1ペアストックしてあったので、それに交換しましたが、ほどなくそれも壊れてしまいました。RCA製は音質は良いけれど、耐久性は良くないのかな、と感じました。
次に使用したのが、たまたま割安で手に入ったGE製6BQ5です。音質的にはまずまずでしたが、RCA程ではないような気がしました。それでも8年ぐらい使用しました。
ある日秋葉原の真空管屋さんをのぞいているときに、electro-harmonix(いわゆるエレハモ)のEL84EHが目にとまりました。現行生産品であり、供給が安定しているので、使ってみようと思い、購入しました。
しばらくストックしてあったのですが、2009年にGE製が壊れたときに、初めて使用しました。やや線が細い音と感じましたが、そのまま使い続けることにしました。

011年になって、左のツィーターからポップノイズが出るようになりました。原因を探るため、MA-208に発振器とダミー負荷、オシロをつないで波形を観測しました。その結果、ポップノイズのほかにも不具合があることを発見しました。
1kHzの正弦波を入力し、徐々にレベルを上げていくと、出力約2.8Wから歪み始め、10W ではぐちゃぐちゃに歪んだ波形になるのです。このときに真空管からかなり大きなピーという音が出ていました。どんな球でも多少は鳴きますが、EL84EHの場合は明らかに鳴き過ぎです。まるでスピーカーのようです。推察するに、電極ががっちり固定されていないために大きく鳴くのだと思います。
念のため右チャンネルも波形を見てみましたが、7.2Wぐらいから大きく歪んでいました。これではEL84の規格を満たしているとはいえません。しかし、考えてみれば、型番はEL84EHです。サフィックスEHはEL84そのものではないということを表わしているのかもしれません。いずれにせよ、今後はEL84EHは使わないことにしました。

エレハモが駄目となると、次に候補に挙がるのはJJです。スロバキアのメーカーで現在もEL84を生産しています。エレハモより値段は高いのですが、信頼性は高そうです。JJEL84の4本マッチド・セット(4本とも特性の揃ったセット)を購入し、差し替えました。

音質は大幅に向上しました。その頃、低音に迫力がない状態だったので、ウーファー・アンプMA-201に不具合があるのでは、と疑っていました。しかし、ツィーター・アンプMA-208が生き返ったことによって、低音の迫力もよみがえりました。
長年オーディオをやっていると、ときどきこういったことを体験します。ツィーターの調子が悪いと、しっかりとした低音が出ないのです。

12AX7については、当初は東芝製を使用していましたが、6BQ5をエレハモに替えたときに、やはりエレハモの12AX7EH Goldに交換しました。

整流管には、Sovtek GZ34を使用しています。

真空管は、同じ型番でもメーカーが違えば、まるで別の球種のようにトーンが違います。その違いは測定機ではわかりません。時間をかけて試聴を重ね、選んでいくしかありません。

自己評価

総合評価として95点。
管球アンプとしては忠実度の高いアンプができたと思います。非常に滑らかで、かつ躍動感のある音がします。
周波数特性は、下図の通り、30kHz以上までフラットで、そこから適度に減衰するようになっています。ツィーターを駆動するアンプとして望ましい特性だと思います。40kHz以上の音を歪みなくとらえられるマイクロフォンはほとんど存在しないので、40kHzは雑音成分と考えてよいと思います。高域はあまりのばし過ぎるよりも、適当に減衰させたほうが、聴感上好ましい結果となります。

Frequency response

本機をメーカー製ハイエンド機と比較試聴する機会がありました。職場のオーディオ仲間がめいめい自慢のオーディオ機器をもちよって、試聴会を行ったのです。会場になったのは上司の部長宅でした。私は完成したばかりの本機をもちこみました。スピーカーにHerbeth HL Compact 7を使用し、LuxのA級アンプ――型名は失念しました。やたら大きくて重いアンプと記憶しています――と比較試聴しました。Luxは歪感やノイズ感はまったくないのですが、音が死んでいるという気がしました。それに対して本機は、活き活きとした躍動感のある、それでいて凄く滑らかな音で、我ながら感動しました。同席した人たちも認めてくれました。

「シンプル・イズ・ベスト」を実証できました。複雑な回路で部品点数の多いアンプよりも、本機のようなシンプルなアンプのほうが、音楽鑑賞用としては有利だと思います。